ブラック・スーツ
ブラック・スーツとは何か

黒の上下揃いのスーツ、いわゆるブラック・スーツは、今や説明不要な略礼装です。正式には「ブラック・ラウンジ・スーツ」と呼ぶのが正しく、アメリカでは「サック・スーツ」とも呼ばれます。
「ラウンジ・スーツ」という言葉は、19世紀のイギリスで、紳士たちがラウンジ(応接室)で寛ぐための服として生まれたことに由来します。「スーツ」とは、ジャケットとパンツの生地が揃った(suit=揃える)服のこと。つまり、ブラック・スーツとは、「くつろぎの服」がフォーマルに昇華したスタイルなのです。
今では、モーニング・コートやディナー・ジャケットと比べ、柔軟で現代的なフォーマルウェアとして位置づけられています。100年後には、ブラック・ラウンジ・スーツが主流の礼装となっているかもしれません。
フォーマルウェアとしての柔軟性
ブラック・スーツは、時間帯を選ばずに使える便利な装いです。昼夜問わず、パーティーから結婚式まで対応できるのは、アクセサリー次第で印象を変えられる柔軟性があるからです。
たとえば、スリーピース・スーツとして仕立てておき、グレーや白のウエストコート(ベスト)を組み合わせれば、一着で何通りもの礼装スタイルが可能です。これは、現代的なフォーマルの考え方といえるでしょう。
黒服と素材の話 森鷗外の視点
ところで、「黒服」について印象的な描写があります。森鷗外が明治43年に発表した短編『ル・パルナス・アンビュラン』。この中で「シルクハット」という言葉がなんと38回も登場します。
作中の一節に、「黒服の西洋人が四人、帽を脱いで来た。同じ黒服でも、此の連中の著てゐるのは、光沢が違ふ。」とあるように、鷗外は素材の違いに注目しています。見た目が似ていても、生地の質が印象を大きく左右するという鋭い観察です。
本当に上質なブラック・スーツとは
ブラック・スーツの真価は生地選びにあります。極上のウールなど上質な素材を使うことで、仕立ての美しさや着たときのシルエットが活きてくるのです。便利なだけでなく、品格あるブラック・スーツを選ぶには、素材こそが鍵なのです。