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袖ボタン

スーツの起源と「トゥイードサイド」

袖ボタンの詳細

物語の始まりは、1830年代のイギリスにさかのぼります。当時、一般市民の作業着として「トゥイードサイド(tweed side)」と呼ばれる服装がありました。これが、現在のスーツの原型です。

トゥイードサイドは、労働用の実用服であったため、袖まくりが可能な仕様になっていました。袖先は、ブルゾンのように一度切り替えられ、その切り替え部分に2個のボタンが付けられていたのです。ボタンで袖口を開閉できるようにしていたのは、まさに労働のための機能だったのです。

ラウンジ・ジャケットへの変化と伝統の継承

やがて1840年代、このトゥイードサイドは、ラウンジ・ジャケット(lounge jacket)という形式へと発展します。このとき、袖口のボタンというディテールも、そのまま新しいスタイルに引き継がれました。

ただし、紳士服となった以上、実際に袖をまくる必要はなくなります。にもかかわらず、機能を失ったボタンが「伝統」として残されたのです。同様に、袖の切り替え線(スリーヴ・シーム)もそのまま踏襲され、初期のラウンジ・ジャケットにも見ることができます。服飾における「機能から装飾への変化」の好例です。

袖ボタンの数の変遷

当初は2個だったボタンの数も、時代の変化とともに3個、4個と増えていきました。現在では4個の袖ボタンが最も一般的となっているのは、こうした変遷の結果なのです。この変化は、19世紀から20世紀にかけての約100年の間に自然に起きたスタイルの「進化」と言えるでしょう。

フォーマルウェアと伝統

たとえば、フロック・コートも19世紀中頃までのものには、まだスリーヴ・シームが残されていました。これは、フォーマルウェアがいかに「伝統の継承」を重視しているかを示す一例です。

そして現代においても、「かつてはここに切り替え線が存在した」という記憶を示す意図で、スリーヴ・シームを再現することも可能です。形式と記憶が共存する――それがフォーマルウェアの美学なのです。