カフ・リンクス
カフリンクスの歴史と紳士の美学


カフリンクス(cuff links)とは、ドレスシャツの袖口を留めるための装飾的な留め具です。フォーマルな場面で用いられる理由は、一般的な貝ボタンを避けるため。というのも、19世紀の英国では、貝ボタンは「下着的」とされており、フォーマルな場ではふさわしくないと考えられていたのです。そこで、より上品で装飾的なカフリンクスが使われるようになりました。
理想的なカフリンクスは、上下対になったデザインで、両端のディスクを小さな鎖でつなぐ形式が正式とされています。これに対して、片側だけで留めるクリップ式は略式で、戦後に普及した比較的新しいスタイルです。19世紀には、上下対の伝統的なデザインが主流でした。
歴史に残るカフリンクスの逸品
1935年、ロンドンの「カルティエ」で制作された「ドレス・スイート(dress suite)」があります。これはカフリンクスとスタッド(飾りボタン)をセットにした贈答用の高級ジュエリーで、シンプソン夫人がウィンザー公へ贈ったものでした。
このセットは、ダイヤモンドをびっしり敷き詰めた「パーヴェ(pave)」と呼ばれる豪華なデザイン。さらによく見ると、ダイヤの中にウィンザー公の頭文字がさりげなく浮かび上がるという、非常に凝ったつくりになっていました。このカフリンクスは後にオークションに出品され、1987年に約5,000万円で落札されたという逸話もあります。
チャールズ皇太子の愛用品
現在の英国王室では、チャールズ皇太子(現・国王チャールズ3世)が、ゴールドの楕円形のカフリンクスを愛用しています。表面には王冠と「C」の文字が刻まれており、王冠は英国王室の象徴、「C」はチャールズの頭文字を示しています。
このように、自分のアイデンティティや物語を込めたデザインのカフリンクスを身につけるのも、フォーマルウェアの楽しみ方のひとつです。