ダブル・カフ
ダブル・カフとは何か?

「ダブル・カフ(double cuff)」とは、ドレスシャツの袖口が二重に折り返された仕様のことです。主にイギリスで使われる呼び方で、アメリカでは「フレンチ・カフ(French cuff)」とも呼ばれています。このアメリカ式の呼称は1916年ごろから使われ始め、当初は「略式の袖口」という意味合いで用いられていたようです。
では、正式な袖口とは何かというと、それは「シングル・カフ(single cuff)」です。一重で硬めの袖口にカフリンクスを通して留めるスタイルで、19世紀中頃まではこのタイプが一般的でした。ところが時代とともにシャツの素材が柔らかくなり、一重の袖口では形が保てなくなったため、二重に折り返す「ダブル・カフ」が登場しました。こうして、現在ではシングル・カフとダブル・カフの2種類が一般的になったのです。
古い慣用句に「スピーキング・オフ・ザ・カフ(speaking off the cuff)」という表現があります。直訳すれば「袖口から話す」ですが、意味は「即興で話す」ということ。この表現は、かつて人々がシャツの袖口をメモ代わりに使っていたことに由来します。袖に書き込んだメモを見ながら話す様子から、この言い回しが生まれました。つまり、当時のシャツの袖口はそれだけしっかりとした作りだったということです。
そして今でも、カフの固さは襟(カラー)や胸(ブザム)の硬さとバランスを取ることが求められます。燕尾服には伝統的な「シングル・カフ」が、ディナー・ジャケットにはモダンな「ダブル・カフ」がよく合うとされます。これもまた、フォーマルウェアを楽しむうえでの一つの美学なのです。