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イヴニング・ドレス

夜の正礼装・燕尾服の美学

燕尾服を着用した男性

燕尾服とは、その名のとおり、上着の後ろに垂れるテイル(裾)が、燕の尾のように見えることから名づけられました。英語では「スワローテイル・コート」とも言い、「テイルコート」や「ドレスコート」と呼ばれることもあります。現在のようなスタイルの燕尾服が完成されたのは、1850年代のイギリス。この時代にようやく、燕尾服が正式な晩餐にふさわしい装いとして確立されるようになりました。

ホワイト・タイの由来

燕尾服には白の蝶ネクタイ、すなわち「ホワイト・タイ」がつきものです。これは、当時流行していた純白のクラヴァット(ネクタイ)を蝶結びにしたことに由来します。つまり、燕尾服と白の蝶ネクタイは、歴史的に結びついた定番の組み合わせなのです。

生牡蠣と白ワイン、あるいはウオッカ

燕尾服に白の蝶ネクタイが定番であるように、生牡蠣には白ワインが定番の組み合わせとされています。現代では、各国に「オイスター・バー」があり、夜ごとにワインやシャンパンのボトルが開けられます。なぜ白ワインかといえば、殺菌効果があるとされているからです。一説によれば、白ワインと一緒に生牡蠣を食べれば、食中毒に当たるリスクが低くなるのだとか。

一方で、生牡蠣にウオッカを合わせる国もあります。その代表格がロシアです。

チェーホフの物語に見る"正装と牡蠣"

ロシアの文豪アントン・チェーホフの短編『酔いどれ』(1887年)には、次のような描写があります。「皮切りに、大きなグラスでウオッカを飲み、生ガキをつまんだ。」

この場面に登場するのは、工場主フローロフと弁護士アリメール。二人は舞踏会の帰りにそのままレストランに立ち寄っており――「どちらも燕尾服に白の蝶ネクタイという服装だった。」つまり彼らは、正真正銘のイヴニング・ドレス姿で、生牡蠣をつまみ、ウオッカを飲んでいるのです。

再び、正装での晩餐を

イヴニング・ドレスを纏い、食事を楽しむという優雅な習慣を、私たちはもう一度取り戻すべきではないでしょうか。そこには単なる食事を超えた、品格と伝統の美学があるのです。