デザイン
着る歴史遺産としてのフォーマルウェア
フォーマルウェアと「デザイン」の関係

「デザイン」という言葉には、もともと「企画」や「立案」といった広い意味があります。フォーマルウェアにおけるデザインとは、いわば「服装の企画・設計」ということになります。そして、その役割を担うのがファッション・デザイナーです。
この「デザイン」という言葉は、実は16世紀末、1593年ごろから使われていたと言われています。語源はラテン語の「désign(デシン)」で、「作り出す」という意味を持っていました。
現在では、毎日のように新しい服が次々と生み出されています。それらの服はすべて、何らかの「デザイン」によって作られているわけです。つまり、デザインなしには服は存在しません。
ところが、不思議なことに、フォーマルウェアの多くは「デザインされたものではない」のです。たとえば、「私はモーニングコートをデザインしました」と胸を張って言う人がどれだけいるでしょうか? おそらくほとんどいないはずです。というのも、モーニングコートは特定のデザイナーによって作られたのではなく、自然な流れで生まれた服だからです。
もともと、モーニングコートの原型はフロックコートでした。1840年代のイギリスで、乗馬の際に前裾が邪魔になるため、フロックコートの裾を後ろに折り返すようになったのが始まりです。そして1850年代には、「それならいっそ、最初から前裾を斜めにカットしてしまおう」となり、アメリカでいう「カッタウェイ・フロックコート」が誕生しました。
これもまた、有名デザイナーが設計図を描いたわけではなく、日常の実用性から自然と形が決まっていったのです。つまり、モーニングコートに「デザイナー」がいるとすれば、それは「時代」や「歴史」そのものだと言えるでしょう。
このことは、フォーマルウェアというのはまさに「着る歴史遺産」であることを意味しています。
フォーマルウェアの魅力とは

現代のファッションは、日々新しいデザインが生み出される一方で、流行に左右され、すぐに廃れていくこともあります。これがファッションの宿命でもあります。
しかし、フォーマルウェアは違います。100年、200年の時代を超えて受け継がれ、今もなお美しいまま存在しています。なぜなら、フォーマルウェアは流行に左右される「デザイン」の産物ではなく、歴史そのものによって磨かれてきたスタイルだからです。
だからこそフォーマルウェアは、流行のサイクルとは無縁の、力強く、そして長く愛される「服」なのです。私たちは、そんなフォーマルウェアの価値をもっと正当に見直すべきではないでしょうか。