フロック・コート
フロックコートの歴史と変遷

フロックコートは、「午後6時以前の正装」とされる格式高い服装です。このフロックコートに対して、やや格式を抑えた略礼装がモーニングコートです。時代で見ると、フロックコートは19世紀の正装、モーニングコートは20世紀の正装と言えるでしょう。
フロックコートが主流だった時代から、徐々にモーニングコートへと移り変わっていったのは、1910年代ごろと考えられます。
デザインの違いとして、フロックコートは両前打ち合わせ(ダブルブレスト)、モーニングコートは片前(シングル)です。この違いには、乗馬文化も関係しています。乗馬では風の抵抗を抑えるため、体にフィットする服が好まれました。当時の紳士たちは、より体に密着するのはダブルのほうだと考え、フロックコートを選んでいたのでしょう。
日本でのフロックコート着用例
実際にフロックコートを着た日本人として、大田黒元雄(音楽評論家の草分け)がいます。彼の著書『はいから紳士譚』には、こう記されています。「たしか明治44年に、父の恩師の未亡人の葬式の際、私はフロックコートを着たのだった。」
明治44年(1911年)は、まさにフロックコートからモーニングコートの時代へと移り変わろうとしていた時期です。大田黒元雄は若くしてイギリス・ロンドン大学へ留学し、経済学を学びました。
当時、ロンドンのチアリング・クロス・ロードにあった書店「ヘンダースン」の店主は、時代が変わっても常にフロックコート姿を貫いていたそうです。彼はその店で、同じく英国留学中の小泉信三(後の学習院長)に出会ったとも記しています。もしかすると、小泉氏はすでにモーニングコートを着ていたのかもしれません。
フロックコートへの思い
モーニングコートは確かに、洗練された美しい正装です。しかし筆者としては、やはりフロックコートの復活を願ってやまないのです。