
フォーマルウェアの根底には、「郷愁」や「古典主義」といった精神が流れています。音楽にクラシックがあるように、服にも時代を超えて受け継がれるスタイルがあるのです。たとえば「モーツァルトはいいね」と言われることがありますが、彼は300年以上前の作曲家。それでも今なお愛されているように、フォーマルウェアもまた「古典服」として尊ばれています。
では、その「古典」とはいつの時代を指すのか?――答えは19世紀、特にイギリスの上流階級の価値観です。その象徴的な例が「側章(サイド・ストライプス)」です。ディナージャケットのパンツの両脇に見られるあの飾り。元々は、トラウザーズの縫い目を隠すためのものでした。
当時の英国紳士は、外縫いのステッチを「下品」「下級」「下着的」と考え、嫌ったのです。そこで縫い目の上にシルクやブレード(組紐)を重ね、美しく覆った。つまり、側章の本質は「縫い目を隠すこと」にあり、一本か二本かは重要ではありません。
フォーマルウェアのディテールには、そんな厳格で洗練された美意識が今もなお息づいているのです。