
フォーマルウェアにおいて、シルク・ハットは欠かせない存在です。昼のフロック・コートでも、夜のイヴニング・コートでも、正統な帽子として最もふさわしいのはこのシルク・ハットです。この帽子は「トップ・ハット」や「ハイ・ハット」とも呼ばれますが、もともとは「ビーヴァー・ハイ・ハット」として知られていました。
19世紀初頭、帽子には水をはじくビーバーの毛皮が使われており、特にイギリス紳士の間で愛用されていました。しかし1820年代にビーバーが乱獲され、絶滅の危機に。代替素材として開発されたのが絹製の「シルク・ハット」でした。
ビーバーの質感に近づける特殊加工が施され、美しい光沢と高級感を持ちつつも、雨には弱いため、英国紳士はこの帽子のために細巻きの傘を持ち歩くようになったのです。シルク・ハットは、かぶるだけでなく手に持つだけでも装いを格調高く見せる力があります。現在でも、格式を重んじる場面ではシルク・ハットが威儀を整える最後の仕上げとして選ばれています。