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ジレ

ジレ ― チョッキの奥深い話

ジレを着用した男性ジレの詳細

「ジレ(gilet)」とは、フランス語で"チョッキ"のことです。英語ではアメリカで「ヴェスト(vest)」、イギリスでは「ウエストコート(waistcoat)」と呼ばれています。つまり、日本語の「チョッキ」と同じアイテムが、国によってさまざまな名前で呼ばれているのです。

この「ジレ」という言葉は、古いスペイン語の「ジェリコ(gelico)」に由来しているとも言われています。ただし、現代スペイン語では「チャレコ(chaleco)」が一般的な呼び名です。いずれにせよ、世界中どこでもチョッキ(ジレ)のような服が存在していると言っても過言ではないでしょう。

チョッキは仕立ての頂点?

フランス語で「ジレティエ(giletier)」は、「チョッキ職人」を意味します。昔のヨーロッパでは、服を仕立てる職人たちは分業しており、ズボン、上着、チョッキの順に仕立てを学ぶという"ステップ"がありました。特にチョッキは、最も仕立てが難しいとされていたため、熟練の職人にしか任されなかったのです。

一方、「ジレティエール(giletiere)」という言葉は、「懐中時計の鎖」を意味します。これは、チョッキのボタンホールに時計の鎖を通して固定する習慣があったためです。

ジレが省かれた理由と反発

第二次世界大戦後、アメリカのファッションの影響でジレを省略するスタイルが流行しました。しかし、これには反発の声もありました。「チョッキがなければ、懐中時計をどこにしまうんだ?」というのがその一つ。さらにもう一つの重要な理由がありました。

ブレイシーズ(吊りバンド)を隠せなくなることです。ジレがないと、下着扱いだったシャツが丸見えになってしまう。当時のイギリスではシャツは"見せてはいけない下着"とされており、それを見せるのは大変な無作法だったのです。こうした理由から、フォーマルウェアにおいてはジレが不可欠とされてきました。

ジレの機能美と理想性

ジレは、実に理想的な服です。袖がないので動きやすく、上着の下でもしっかりフィットさせることができ、シャツを隠せるうえ、懐中時計の収納場所としても優れています。つまり、機能性と美しさを兼ね備えた"究極の服"なのです。

二枚重ねのジレというおしゃれ

ミッシェル・ボーリュウ著『服飾の歴史』には、1820年代のフランスの服装として、次のような記述があります。「アビ(上着)とともに、二枚のジレが着用される。一つは白のピケ生地、もう一つはビロード製。」

このように、ジレを重ね着するスタイルが当時のフランスではおしゃれとされていました。イギリスでも同じく、ごく自然な装いだったのです。この流行は200年も前のものですが、現代でも二枚のジレを重ねたり、重ねているように見えるデザインを取り入れるのは面白い試みかもしれません。