ホワイト・タイ
ホワイト・タイとクラヴァットの系譜

「ホワイト・タイ」とは、夜間における第一正装を意味します。すなわち、燕尾服(テイルコート)を着用する際には、必ず白の蝶ネクタイ=ホワイト・タイを結ぶのが正式とされているのです。
それに続くのが、「ブラック・タイ」、つまり夜間の略礼装です。ホワイト・タイとブラック・タイの格式が明確に区別されているからこそ、今日私たちが目にするさまざまなボウ・タイ(蝶ネクタイ)が存在するわけです。
ボウ・タイの源流──クラヴァット
現代のボウ・タイの原点は、クラヴァット(cravat)にあります。19世紀初頭、英国の紳士たちは日常的にクラヴァットを愛用していました。クラヴァットは、細長い布を首に巻き、前で蝶結びにして固定するスタイルが一般的でした。この蝶結びの部分が、やがて独立し、今日のボウ・タイとなっていったのです。
当時のクラヴァットは、およそ長さ1メートル、幅30センチほどのリネン(麻布)で作られていました。その両端は、槍の穂先のように尖った形状をしており、これは美しく結びやすくするための工夫だったとされています。
燕尾服とクラシックな首元
現在でも、クラシックな装いを好むならば、燕尾服にクラヴァットを合わせることも可能です。むしろ、それは一層格式の高い着こなしといえるでしょう。
ただし、クラヴァットを美しく着用するためには、それにふさわしい専用のドレス・シャツが必要となります。具体的には、首を高く覆うハイ・カラー(高襟)のシャツです。その高い襟の上からクラヴァットを巻き、最後に丁寧に蝶結びで仕上げる――これが本来の様式なのです。
伝統が息づくネックウェアの美学
このように、ボウ・タイという一見小さな装飾品にも、19世紀のクラヴァットに始まる深い歴史と美意識が宿っているのです。形式を重んじるフォーマルウェアの世界では、単なるスタイルではなく、時代を超えて継承されてきた「意味」が、首元ひとつにも表れているのです。